【舞台はここに】池田遥邨「雪の大阪」 大阪・中之島(産経新聞)

 ■絵描きが好んだ詩情、近代建築

 雪が降り積もった冬の朝。公園の中にある噴水も音楽堂も、冷たく真っ白に彩られている。そばの川には、たゆたう外輪船。空も川面も白くかすんで、雪が都会に幻想のベールをかけたようだ。

 題名を見ずにこの絵だけを見たら、どれぐらいの人が大阪と気づくだろうか。中之島の一番東、難波(なにわ)橋から天神橋あたり。風景画を手がけた日本画家、池田遥邨(ようそん)が初めて帝展(帝国美術院展覧会)で特選を得、画壇の中枢に駆け上がっていく記念碑的作品「雪の大阪」は、中之島が舞台だった。

 昭和3年2月11日、大阪は22年ぶりの積雪となる。京都に居を構えていた遥邨は絶好の機会とばかりに電車にとび乗り、中之島を訪れたらしい。ふだん煤煙(ばいえん)の町といわれていた大阪が、7センチほどの積雪で見事な清浄さに変貌(へんぼう)していた。

 「中之島はいろんな角度から描けますが、遥邨がこのアングルでとらえたのは見た目のきれいさもあったのでしょう。大阪の町を彼ほどきれいに描いた画家はいません」。大阪市立近代美術館建設準備室主任学芸員の小川知子さんはこう言う。

 大正から昭和初めごろの中之島。それは絵描きにとって「描かない人はない」ほどの特別な場所だったという。水辺がある風景が醸し出す詩情に加え、急速な都市化の中、中之島と対岸には斬新なスタイルをもった建物が次々と建てられた。そのころに絵を志す人、特に洋画家ならみんなあこがれたというパリのシテ島も連想させる場所だったに違いない。

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 もともと洋画出身の遥邨が描いた「雪の大阪」の見どころは、日本画では異例なほどの写実性にある。絵を見ていると、80年あまり前にタイムスリップした感覚にとらわれるほど。描かれた水辺を歩いてみたら、さらにその正確な描写に驚かされる。

 京阪電鉄天満橋駅前の八軒家浜から大川沿いに下っていくと、目にとまるのが、絵では右手にあるルポンドシエルビルのレトロなタイルの壁だ。大正15年、大林組本店ビルとして建てられ、今はおしゃれなフランス料理店などになっている。

 さらに土佐堀川沿いに下り、難波橋を半ばまで渡る。そこから現在の大阪市立東洋陶磁美術館にいたるあたりが、遥邨が「雪の大阪」を取材した場所といわれている。今では阪神高速やビルに視野を遮られるが、当時は大阪城の全容が見通せたのだろうか。画面上部の大阪城は天守閣の再興(昭和6年)前で、雪に覆われた石垣の重なりが荘重に描かれる。

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 今も大阪の文化ゾーンとして、休日には画板を抱える人が多い中之島。しかし周辺には近代建築にかわって高層ビルが立ち並び、芸術の舞台としての中之島は変わりつつある。

 東洋陶磁、国立国際などの美術館に加え、大阪市立近代美術館の建設計画も動き、美の“受け皿”が整う中、「単に絵を描くだけではない立体や川を使ったプロジェクトなど、若い世代の美術家が何かを生み出してくれるのではないか」と小川さんは言う。

 描かれる町から創(つく)る町へ。中之島はどんな芸術を残せるのだろう。(坂下芳樹)

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【中之島を描いた画家たち】

 大正から昭和初期、洋画家も中之島あたりを多く描いた。都市の風景を得意とした国枝金三、後に日本画に転向した青木宏峰の作品ほか、小出楢重も中之島の近代的な都市風景を好み「市街風景(街景)」を描いた。フランスで活躍した佐伯祐三は大正15年から昭和2年まで帰国した際、「肥後橋風景」を描く。織田一磨は連作版画「大阪風景」に数多くの作品を残している。

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 歌舞伎や小説、絵画、歌…。さまざまな作品に登場する舞台の“今”を訪ねます。

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